「朝起きると、なんだか顎が疲れている…」
「仕事に集中していると、無意識に歯を食いしばっている気がする…」
そんな経験はありませんか?
現代社会のストレスは、知らず知らずのうちに私たちの歯や顎に大きな負担をかけています。
この記事では、7年間で3,000人以上の患者さんをケアしてきた歯科衛生士として、そして同じく日々奮闘する一人の生活者として、歯ぎしりや食いしばりの原因から、ご自身でできる簡単なセルフケア、そして歯科医院での専門的な治療法まで、分かりやすくお伝えします。
大切な歯をストレスから守るための、最初のステップを一緒に踏み出しましょう。
もしかして私も?歯ぎしり・食いしばりのサインをセルフチェック
まずは、ご自身の状態を客観的に見てみましょう。
当てはまるものはありますか?
こんな症状、ありませんか?
- 朝起きたときに顎がだるい、または痛みを感じる
- 歯がすり減ってきた、または欠けたことがある
- 冷たいものや熱いものが歯にしみるようになった(知覚過敏)
- 原因不明の頭痛や肩こり、首こりに悩んでいる
- 頬の内側や舌に、歯を押し付けたような跡がある
- 集中しているとき、無意識に歯を食いしばっていることに気づく
- 家族やパートナーから、寝ているときの歯ぎしりを指摘された
一つでも当てはまるものがあれば、あなたの歯や顎はサインを出しているのかもしれません。
なぜ起こるの?主な原因はストレスと「ある癖」
歯ぎしりや食いしばりの最大の原因は「ストレス」だと言われています。
ストレスを感じると、私たちの体は緊張状態になり、交感神経が優位になります。
すると、眠りが浅くなったり、無意識のうちに筋肉がこわばったりして、睡眠中に強い力で歯ぎしりをしてしまうのです。
そして、もう一つ見落とされがちなのが、日中の無意識な「ある癖」。
それは「TCH(歯列接触癖)」と呼ばれるものです。
TCHとは、食事や会話のとき以外に、上下の歯を「そっと」接触させ続けてしまう癖のこと。
実は、私たちの上下の歯が接触している時間は、1日合計しても20分程度が正常だと言われています。
「強く噛んでいないから大丈夫」と思うかもしれませんが、弱い力でも長時間続くことで、歯や顎には大きな負担が蓄積されていくのです。
放置は危険!歯ぎしり・食いしばりが引き起こす7つのリスク
「少し気になるだけだから…」と放置してしまうと、お口の中だけでなく、全身に様々なトラブルを引き起こす可能性があります。
私が臨床現場で見てきた、本当に怖い7つのリスクをお伝えします。
1. 歯がすり減る・割れる
健康な歯はとても硬いですが、毎晩のように強い力でこすり合わせれば、当然すり減ってしまいます。
ひどい場合には歯にヒビが入ったり、最悪の場合、歯が割れて抜歯に至るケースも少なくありません。
2. 歯周病が悪化する
歯ぎしりの強い力は、歯を支えている骨や歯茎にもダメージを与えます。
この揺さぶりが、歯周病の進行を早めてしまうことがあるのです。
3. 顎関節症を引き起こす
顎の関節に過度な負担がかかり続けると、「口が開きにくい」「顎を動かすとカクカク、ジャリジャリと音が鳴る」「顎が痛い」といった顎関節症の症状を引き起こすことがあります。
4. 知覚過敏になる
歯の表面にあるエナメル質がすり減ると、その下にある神経に近い「象牙質」が露出してしまいます。
これにより、冷たい水や風がしみるといった、つらい知覚過敏の症状が出やすくなります。
5. 詰め物・被せ物が取れやすくなる
せっかく治療した詰め物や被せ物も、想定外の強い力がかかることで、頻繁に取れたり、壊れたりする原因になります。
6. 頭痛・肩こり・首こりを招く
歯を食いしばるときに使う筋肉(咬筋)は、頭の横にある側頭筋や、首、肩の筋肉とつながっています。
顎周りの筋肉が常に緊張していると、その緊張が周りに伝わり、原因不明の頭痛や頑固な肩こりを引き起こすのです。
7. 顔のエラが張る(見た目の変化)
食いしばりを続けることは、いわば頬の筋肉を毎日筋トレしているようなもの。
咬筋が必要以上に発達し、顔の輪郭が角ばって見えたり、エラが張ってきたりと、見た目に影響が出ることもあります。
今日からできる!歯科衛生士が教えるセルフケア&ストレス対策
怖い話が続きましたが、ご安心ください。
日常生活の中で、症状を和らげるためにできることはたくさんあります。
専門家として、そして同じ生活者としての視点から、今日からすぐに始められる方法をご紹介しますね。
まずは「意識」することから始めよう
日中の食いしばり(TCH)対策で最も大切なのは、無意識の癖に「気づく」ことです。
パソコンのモニターやスマートフォンの待ち受け画面など、普段よく目にする場所に「歯を離す」「力を抜く」と書いた付箋を貼ってみてください。
それを見るたびに、上下の歯が接触していないか、肩の力は抜けているかを確認する習慣をつけるだけで、大きな変化がありますよ。
緊張をほぐす簡単マッサージ&ストレッチ
食いしばりで凝り固まった筋肉を、優しくほぐしてあげましょう。
- 咬筋マッサージ:奥歯を「いー」と噛みしめたときに硬くなる頬の筋肉(咬筋)に、人差し指から薬指までの3本を当てます。
- 口を少し開けて力を抜き、優しく円を描くように10回ほどマッサージします。
- 側頭筋マッサージ:こめかみのあたり(咬筋と同じように、噛みしめると動く部分)も同様に優しくほぐします。
お風呂上がりなど、体が温まっているときに行うのがおすすめです。
合わせて、首や肩をゆっくり回すストレッチも行うと、より効果的です。
ヨガ講師に聞いた!リラックスできる呼吸法
私自身も実践しているのですが、ストレスを感じたときには「呼吸」を意識するのがとても効果的です。
特に、心と体をリラックスモードにする「腹式呼吸」がおすすめです。
- 楽な姿勢で座り、おへその下に手を当てます。
- 鼻からゆっくり息を吸い込み、お腹が膨らむのを感じます。
- 口からゆっくり、吸うときの倍くらいの時間をかけて息を吐ききり、お腹がへこむのを感じます。
これを数回繰り返すだけで、高ぶっていた神経が落ち着き、筋肉の緊張も和らいでいきます。
食事で口腔ケア?歯科衛生士おすすめの栄養素
筋肉の緊張を和らげたり、ストレスへの抵抗力を高めたりする栄養素を食事に取り入れるのも良い方法です。
- マグネシウム → 筋肉の緊張を緩める働きがあります。(ナッツ類、海藻類、大豆製品など)
- ビタミンC → ストレスに対抗するためのホルモンを作るのに欠かせません。(パプリカ、ブロッコリー、果物など)
- カルシウム → 神経の興奮を鎮める効果が期待できます。(乳製品、小魚、小松菜など)
バランスの良い食事は、お口だけでなく心と体の健康の基本ですね。
それでも改善しないときは?歯科医院での専門的な治療法
セルフケアを続けても症状が改善しない場合や、すでに歯が欠けたり痛みが強かったりする場合は、一人で抱え込まずに専門家を頼ってください。
歯科医院では、あなたのお口の状態に合わせた専門的な治療が可能です。
主流な治療法「マウスピース(ナイトガード)」
睡眠中の歯ぎしりから歯や顎を守るための、最も一般的な治療法です。
夜寝る間際に、透明なマウスピースを装着します。
これにより、歯ぎしりの力を分散させ、歯がすり減ったり、顎関節にかかる負担を大幅に軽減することができます。
歯科医院で歯ぎしりの治療として作製する場合、保険が適用され、3割負担の方で3,000円~6,000円程度が費用の目安です。
噛み合わせの調整
詰め物や被せ物の高さが合っていなかったり、特定の歯だけが強く当たっていたりすることが、歯ぎしりの引き金になることもあります。
その場合は、原因となっている歯をほんの少しだけ調整することで、症状が劇的に改善することがあります。
重度の方向けの治療法「ボツリヌス治療」
どうしても食いしばる力が強く、マウスピースがすぐに壊れてしまうような重度のケースでは、咬筋の緊張を直接和らげる「ボツリヌス治療(ボトックス治療)」という選択肢もあります。
ただし、これは保険適用外の自由診療となります。
野田阪神歯科クリニックでの取り組み
当院では、まず患者さんのお話をじっくり伺うことから始めます。
歯ぎしりの原因は、生活習慣やストレスなど、一人ひとり違うからです。
精密な検査に基づき、あなたに合った治療計画はもちろん、日々のセルフケアについても一緒に考えていきますので、安心してご相談ください。
よくある質問(FAQ)
最後に、患者さんからよくいただく質問にお答えしますね。
Q: 子どもの歯ぎしりは心配しなくても大丈夫ですか?
A: 多くの場合は、乳歯から永久歯への生え変わり時期に、顎の位置や噛み合わせを調整している生理的なものなので、過度な心配は不要です。
ただし、歯が極端にすり減っているなど、気になる場合は一度ご相談くださいね。
Q: マウスピースは日中もつけた方がいいですか?
A: 基本的には睡眠中の使用が主ですが、日中の食いしばりが特に強い方には、日中用の薄いタイプをおすすめすることもあります。
生活スタイルや症状に合わせて歯科医師・歯科衛生士と相談して決めましょう。
Q: 市販のマウスピースではダメなのでしょうか?
A: 手軽に試せるメリットはありますが、ご自身の噛み合わせに合っていないと、かえって顎関節に負担をかけたり、噛み合わせを悪化させたりするリスクがあります。
安全性と効果を考えると、歯科医院で精密に作製することをおすすめします。
Q: 歯ぎしりは完全に治りますか?
A: 歯ぎしりの原因はストレスなど複合的な要因が多いため、「完全に治す」のは難しい場合もあります。
しかし、マウスピースなどで歯や顎へのダメージを軽減し、セルフケアで症状をコントロールすることは十分に可能です。
うまく付き合っていくという視点も大切ですね。
Q: 治療にはどれくらいの期間や費用がかかりますか?
A: 最も一般的なマウスピース治療の場合、型取りと完成後の調整で通常2回ほどの通院で済みます。
費用は先ほどお伝えした通り、保険適用(3割負担)で3,000円~6,000円程度です。
噛み合わせの調整などが必要な場合は、別途治療期間と費用がかかりますので、まずは検査・診断を受けていただくのが良いでしょう。
まとめ
ストレス社会で頑張るあなたの歯は、知らず知らずのうちに悲鳴を上げているかもしれません。
今回のセルフチェックで「もしかして」と思われた方は、ぜひ今日からできるマッサージやリラックス法を試してみてください。
そして、「歯が欠けてしまった」「顎の痛みが続く」といった症状がある場合は、一人で悩まずに、私たち専門家を頼ってくださいね。
野田阪神歯科クリニックでは、歯科衛生士として、そして一人の生活者として、あなたの悩みに寄り添い、お口の健康を守るお手伝いをさせていただきます。
毎日の小さなケアが、将来の大きな差になります。
まずは気軽にご相談ください。