株式会社ゴールドリンク、シニアアドバイザーの金田智子です。金融業界に15年身を置く中で、多くのお客様から「先の見えない時代、何に投資すれば安心ですか?」というご質問をいただいてきました。特に経済が不安定になると、「有事の金」という言葉を耳にする機会が増えるのではないでしょうか。
しかし、なぜ金がそれほどまでに信頼されるのか、その本当の理由をご存じでしょうか。この記事では、過去100年間に世界を揺るがした数々の経済危機を振り返りながら、金が「有事の資産」としていかにその価値を証明してきたかを解き明かします。歴史という客観的な事実から金の普遍的な価値を学ぶことで、皆様が将来の資産形成を考える上での、確かな羅針盤となる知識をお届けできれば幸いです。
なぜ金は「有事の資産」と呼ばれるのか?
資産の価値を守る「安全資産」としての金
「有事」とは戦争や紛争、金融危機などの非常事態を指します。こうした状況下で、なぜ金が選ばれるのでしょうか。その答えは、金の本質的な特性にあります。
株式や債券は、発行体である国や企業の信用に依存しています。企業が倒産すれば株式の価値はゼロになり、国が財政破綻すれば国債も価値を失う可能性があります。しかし、金は違います。金はそれ自体に価値がある「実物資産」であるため、発行体の信用リスクが存在しないのです。
この普遍的な価値こそが、有事における資産の逃避先として金が選ばれる最大の理由です。私がお客様にご相談をいただく際も、「価値がなくならない安心感」を求めて金投資を検討される方が非常に多くいらっしゃいます。
世界共通の価値を持つ「無国籍通貨」
金は特定の国に依存せず、世界中で価値が認められている「無国籍通貨」としての側面を持ちます。どの国の通貨制度が混乱しても、金の価値は世界共通で認識され続けます。
特に重要なのは、通貨の価値が下落するインフレ局面での金の役割です。各国政府が大量の紙幣を発行すると、通貨の価値は相対的に下がります。しかし、金は埋蔵量に限りがあり、人工的に作り出すことができないため、インフレ時には金の価値が相対的に上昇しやすい傾向があります。
私の経験上、自国通貨への不安が高まる局面で、お客様の金への関心が急激に高まるケースを数多く見てきました。これは、金が持つ「通貨価値の希薄化から資産を守る力」を、多くの方が本能的に理解されているからだと考えています。
【歴史検証】過去100年の経済危機と金の価格動向
1929年 世界大恐慌 金本位制の崩壊と金の価値
1929年10月に始まった世界大恐慌は、現代の金融システムの原点ともいえる重要な転換点でした。この危機により各国が金本位制を離脱し、通貨の価値が不安定になる中で、金の価値が見直されることになります。
- 1931年:イギリスが金本位制を離脱
- 1933年4月:アメリカが金本位制を停止
- 1934年1月:アメリカが金価格を20.67ドルから35ドルに切り上げ(約69%の上昇)
当時は金の個人保有が制限されるなど、現代とは状況が大きく異なります。しかし、通貨の信認が揺らいだ時に人々が金に価値を見出したこの出来事は、「有事の金」という概念の歴史的な原点として重要な意味を持っています。
1970年代 オイルショック 激しいインフレと金価格の高騰
1970年代は、金投資の歴史において最も劇的な変化を遂げた時代です。まず1971年8月15日のニクソンショックにより、ドルと金の兌換が停止され、ブレトンウッズ体制が終了しました。これにより金価格は市場で自由に決まるようになり、その後の2度のオイルショックが金価格を押し上げることになります。
第1次オイルショック(1973-1974年)の影響
- 原油価格が約4倍に上昇
- 日本の消費者物価指数が前年比23%上昇(「狂乱物価」)
- 金価格が大幅上昇(インフレヘッジとして機能)
第2次オイルショック(1978-1982年)の影響
- 1979年のイラン革命による原油供給不安
- 1980年1月に金価格が史上最高値(当時)を記録
金価格の推移データ
- 1971年:約35ドル/オンス
- 1973年:約100ドル/オンス
- 1979年末:約455ドル/オンス(約13倍の上昇)
この時期から「インフレヘッジとしての金」という考え方が広く浸透しました。モノの値段が上がるインフレ時には、同じ「モノ」である金の価値も上昇するという原理が、実際の市場で証明されたのです。
2008年 リーマンショック 金融システム不安と金への資金逃避
2008年9月15日のリーマン・ブラザーズ破綻から始まった世界的な金融危機は、現代の金投資を語る上で欠かせない重要な出来事です。この危機における金の動きは、「有事の金」の複雑な側面を浮き彫りにしました。
- ショック直前(2008年9月):NY金約1,011ドル、国内金相場約2,859円
- ショック直後(2008年10月):NY金約681ドル、国内金相場約2,104円
- その後の回復:2008年後半から2013年初頭まで継続的に上昇
- 5年間の上昇:約825ドルから1,650ドル超へ(約2倍)
興味深いのは、当初は現金化のために金も売られ、価格が下落したことです。しかし、その後の大規模な金融緩和による通貨価値の希薄化懸念から、安全資産としての金に資金が集中し、価格が大きく上昇しました。
この経験から学べるのは、短期的には金も他の資産と同様に下落する可能性があるものの、中長期的には金融システム不安に対する「最後の砦」として機能するということです。実際に、この時期に金投資を始められたお客様の多くが、長期的な資産保全効果を実感されています。
2020年 コロナショック以降 未曾有の危機と地政学リスクの高まり
新型コロナウイルスのパンデミックは、人類が経験したことのない新たな危機でした。この未曾有の事態において、金は再びその真価を発揮することになります。
金価格の記録的上昇
- 2020年1月:約1,575ドル/オンス
- 2020年8月5日:2,047ドルの史上最高値を記録
- 年間上昇率:約24.6%(2020年)
- 40年ぶりの史上最高値更新
価格上昇の背景
- パンデミックによる経済・社会の混乱
- 各国の大規模な金融緩和政策
- 通貨供給量増加によるインフレ懸念
- 経済の先行き不透明感
- 地政学的リスクの複合的な高まり
お客様からも「これからの世界はどうなるのか」という不安の声を多く聞きますが、こうした不確実性の高まりが、現代において金の価値を再認識させています。実際に、S&P500指数が横ばいの中で金価格が25%上昇するなど、他の資産との明確な違いを示しました。
経済危機で金が輝く3つの理由
過去100年の歴史を振り返ると、経済危機のたびに金が注目される理由が明確に見えてきます。ここでは、その核心となる3つの理由を詳しく解説いたします。
理由1:インフレに強く、資産の目減りを防ぐ
- ✓ 埋蔵量に限りがあり、人工的に作り出せない希少性
- ✓ 通貨供給量増加時の価値希薄化に対する抵抗力
- ✓ 歴史的に証明されたインフレ時の価格上昇傾向
金融緩和などで市中のお金の量が増えると、通貨の価値は相対的に下がります(インフレ)。しかし、金は埋蔵量に限りがあり、人工的に作り出せないため価値が希薄化しにくく、インフレから資産価値を守る「インフレヘッジ」機能を持ちます。
1970年代のオイルショック時には、激しいインフレの中で金価格が13倍に上昇し、この機能が実証されました。また、2020年のコロナ禍でも、各国の大規模な金融緩和に対して金価格が史上最高値を更新し、現代においてもこの特性が有効であることが確認されています。
理由2:発行体の破綻リスクがない「実物資産」
- ✓ 企業の倒産リスクがない(株式との違い)
- ✓ 国家の財政破綻リスクがない(国債との違い)
- ✓ 価値がゼロになることがない絶対的な安心感
株式は企業が倒産すれば価値がゼロになる可能性があります。国債も発行国が財政破綻すれば大きく価値を失います。しかし、金そのものには発行体が存在しないため、価値がゼロになることはありません。
この「価値がなくならない」という絶対的な安心感が、金融システム不安の際に投資家から選ばれる最大の理由です。リーマンショック時に多くの金融機関が破綻する中で、金が最終的に大幅な価格上昇を見せたのも、この特性によるものです。
理由3:他の資産と異なる値動きをする「分散投資効果」
- ✓ 株式・債券との低い相関性
- ✓ 株価下落時の金価格上昇パターン
- ✓ 資産全体のリスク低減効果
金は株式や債券といった他の金融資産との相関が低い傾向があります。例えば、株価が下落する局面で金価格が上昇することがあり、資産全体のリスクを低減させる「ポートフォリオの守りの要」としての役割を果たします。
実際に、富裕層のお客様の多くが資産分散の一環として金を保有されています。「すべての卵を一つのカゴに盛るな」という投資の格言がありますが、金はまさに「別のカゴ」として機能し、ポートフォリオ全体の安定性を高める効果があるのです。
よくある質問(FAQ)
お客様から実際にいただくことの多いご質問について、歴史的な事実を踏まえてお答えいたします。
Q: 金利が上がると、金の価格は下がるのですか?
A: 一般的に、金利が上昇すると、金利を生まない金の魅力が相対的に低下し、価格が下落する傾向があります。これは金投資の基本的なセオリーです。
ただし、金利上昇の背景にある経済情勢によっては、必ずしもセオリー通りに動かないこともあります。例えば、高インフレを抑制するための金利上昇の場合、インフレヘッジとしての金の需要が高まり、金利上昇にもかかわらず金価格が上昇することがあります。1970年代のオイルショック時がまさにその例でした。
Q: 金投資にデメリットやリスクはありますか?
A: はい、デメリットもございます。投資判断をする上で、メリットとデメリットの両方を理解することが重要です。
主なデメリット:
- 利息や配当を生まないため、インカムゲインは期待できません
- 現物で保有する場合は盗難や紛失のリスクがあります
- 保管コストがかかる場合があります
- 価格変動リスクがあります(短期的には大きく下落することもあります)
リーマンショック時に金価格が一時的に33%下落したように、短期的な価格変動は避けられません。しかし、長期的な資産防衛の観点から捉えることで、これらのリスクを適切に管理することができます。
Q: 戦争や紛争が起きると、必ず金の価格は上がりますか?
A: 歴史的に見ると、地政学リスクが高まると安全資産として金が買われ、価格が上昇する傾向があります。しかし、「必ず」上昇するとは限りません。
短期的な値動きは他の経済要因(金利動向、ドルの強弱、株式市場の動向など)にも影響されるため、地政学リスクだけで金価格が決まるわけではありません。重要なのは、あくまで長期的な資産防衛の観点から金を捉えることです。
過去100年の歴史を見ると、個々の短期的な変動はあっても、大きな危機の際には金が「最後の砦」として機能してきたことは確かです。
Q: ポートフォリオの中で、金はどのくらいの割合で持つのが理想ですか?
A: 一概には言えませんが、一般的には総資産の5%〜10%程度を目安とする考え方があります。
ただし、これはあくまで一般論であり、実際にはご自身の資産状況、年齢、リスク許容度、投資目的などによって適切な割合は変わります。まずは少額から始め、金の値動きや特性を理解しながら、徐々に調整していくことをお勧めします。
大切なのは、市場が安定している平時から計画的に組み入れておくことです。危機が起きてから慌てて購入するのではなく、「備えあれば憂いなし」の精神で、長期的な視点で金投資を検討していただければと思います。
Q: 金価格が下がるのはどんな時ですか?
A: 主に、経済が安定し、投資家のリスク許容度が高まる時です。
金価格が下落しやすい状況:
- 株価が好調で、リスク資産への投資意欲が高まっている時
- 米ドルの価値が上昇している局面
- 金利が上昇し、利回りのある資産の魅力が高まっている時
- 経済の先行き不安が和らいでいる時
しかし、これらの状況でも必ず下落するわけではありません。複数の要因が複雑に絡み合って価格が決まるため、単純な法則で予測することは困難です。だからこそ、短期的な値動きに一喜一憂するのではなく、長期的な資産防衛の手段として金を位置づけることが重要なのです。
まとめ
過去100年の歴史を振り返ると、世界が経済危機や社会不安に見舞われるたびに、金はその普遍的な価値を証明し、「有事の資産」として人々の資産を守ってきました。
1929年の世界大恐慌では、金本位制の崩壊とともに金の価値が見直され、1970年代のオイルショックでは激しいインフレの中で金価格が13倍に上昇しました。2008年のリーマンショックでは、短期的な下落の後に5年間で約2倍の上昇を見せ、2020年のコロナ禍では40年ぶりの史上最高値を更新しました。
時代は変わっても金の役割は変わりません。それは、金が特定の国や企業の信用に依存しない「実物資産」であり、インフレや通貨価値の下落から資産を守る力を持っているからです。
現在の世界は、地政学リスクの高まり、各国の金融政策の変化、技術革新による社会構造の変化など、多くの不確実性に直面しています。こうした環境下で、過去100年にわたって証明されてきた金の安定性は、より一層重要な意味を持つと考えられます。
この記事を通じて、金の歴史的な強さをご理解いただけたのではないでしょうか。将来の不確実性に備えるための第一歩として、資産の一部に金を組み入れることを検討してみることは、皆様の未来の安心を守るための賢明な選択肢の一つと言えるでしょう。
金投資は決して万能ではありません。短期的な価格変動もあれば、他の投資手段と比較して劣る場面もあります。しかし、長期的な視点で資産を守るという観点から見れば、金が果たしてきた役割の重要性は、歴史が雄弁に物語っています。
大切なのは、金を「投機」の対象としてではなく、「資産防衛」の手段として捉えることです。そして、ご自身の資産状況や投資目的に合わせて、適切な割合で組み入れることです。
私たち株式会社ゴールドリンクは、「日本国内のすべての方に金地金を」という理念のもと、皆様の資産形成をサポートしてまいります。金投資についてご不明な点がございましたら、いつでもお気軽にご相談ください。歴史に学び、未来に備える。それが、真の資産形成の第一歩なのです。
この記事は、株式会社ゴールドリンク シニアアドバイザー 金田智子が、過去100年の経済危機と金価格の関係について、信頼できる情報源を基に執筆いたしました。投資判断は自己責任で行っていただき、詳細については専門家にご相談されることをお勧めします。