「朝起きると、なんだか顎がだるい」
「家族に、寝ているとき歯ぎしりがうるさいって言われた」
「気がつくと、ぐっと歯を噛みしめていた」
こんな経験に心当たりはありませんか?
実は、歯ぎしりや食いしばりは珍しいことではありません。
日本歯科医師会によると、睡眠時の歯ぎしり(ブラキシズム)の有病率は成人で約5〜8%、小児では約10〜20%にのぼります。
さらに、日中に無意識に歯を噛みしめてしまう癖も含めると、潜在的にはもっと多くの方が該当する可能性があります。
厄介なのは、歯ぎしりや食いしばりは自分では気づきにくいこと。
そして、放置すると歯が欠けたり、割れたり、顎関節症を引き起こしたりと、お口全体に深刻なダメージを与えてしまいます。
この記事では、歯ぎしり・食いしばりの原因から、自分でチェックする方法、今日からできるセルフケア、そして歯科医院での治療法や費用まで、歯医者の立場からわかりやすくお伝えしていきます。
「もしかして自分も?」と思った方は、ぜひ最後まで読んでみてくださいね。
この記事の要点まとめ

歯ぎしり・食いしばりとは?3つの種類と違い
「歯ぎしり」と「食いしばり」。
どちらもよく聞く言葉ですが、実はこの2つ、まったく別の動きをしています。
まずは違いを整理してみましょう。
歯ぎしり(グラインディング)と食いしばり(クレンチング)の違い
歯ぎしりや食いしばりは、まとめて「ブラキシズム」と呼ばれます。
大きく分けると3つの種類があります。
| 種類 | 動き方 | 音 | 特徴 |
|---|---|---|---|
| グラインディング(歯ぎしり) | 下顎を左右にスライドさせる | 「ギリギリ」と音が鳴る | 周囲が気づきやすい |
| クレンチング(食いしばり) | 上下の歯をぐっと強く噛み合わせる | 音がしない | 本人も周囲も気づきにくい |
| タッピング | 上下の歯をカチカチと小刻みに打ち付ける | 「カチカチ」と音が鳴る | 比較的まれ |
この中でもっとも厄介なのが、実はクレンチング(食いしばり)です。
ギリギリと音が鳴る歯ぎしりは家族が気づいてくれることもありますが、食いしばりは音がしないため発見が遅れがち。
本人が自覚しないまま何年も続けてしまい、気づいたときには歯にかなりのダメージが蓄積していた、というケースも少なくありません。
「夜の歯ぎしり」と「日中の食いしばり」は別物
もう一つ知っておいていただきたいのが、「いつ起きるか」による違いです。
寝ている間の歯ぎしり(睡眠時ブラキシズム)は、脳の活動に関連した睡眠中の現象です。
これは自分の意志ではコントロールできません。
「気をつけよう」と思っても、寝ている間のことなので止めようがないんです。
一方、日中に無意識に歯を合わせてしまう癖は「TCH(歯列接触癖)」と呼ばれています。
パソコン作業に集中しているとき、スマホを見ているとき、ストレスを感じているとき。
ふと気づくと上下の歯がぴったりくっついていた、という経験はありませんか?
本来、リラックスしているとき、上下の歯は1〜3mm程度離れているのが正常な状態です。
唇は閉じていても、歯は触れ合っていない、これが安静時の正しいポジションです。
この「夜は止められない、でも昼は意識で減らせる」という違いを知っているかどうかで、対策の取り方がまったく変わってきます。
こんなサインに心当たりはありませんか?セルフチェック
歯ぎしりや食いしばりは、自覚がなくても体にはしっかりサインが出ています。
以下の項目をチェックしてみてください。
お口の中のサイン
鏡の前で、お口の中を確認してみましょう。
- 舌の側面がガタガタしている(波打ったような歯の跡=圧痕がついている)
- 頬の内側に白い線がある(噛み合わせた歯の跡)
- 歯の先端が平らにすり減っている
- 歯にヒビや欠けがある
- 詰め物やかぶせ物が何度も取れる、割れる
- 冷たいものがしみる(知覚過敏の症状が出ている)
- 下顎の内側や上顎の真ん中あたりに、骨のコブのような硬い膨らみがある(骨隆起)
特に、舌の側面のガタガタ(圧痕)は食いしばりの代表的なサインです。
舌を軽く出して、鏡で側面を見てみてください。
歯の跡がくっきり波打っていたら、日常的に強い力がかかっている証拠です。
体に出るサイン
お口の中だけでなく、体にも以下のようなサインが出ることがあります。
- 朝起きたとき、顎がだるい・重い・疲れている
- 原因不明の頭痛がある(特にこめかみのあたり)
- 肩こり・首のこりが慢性的に続いている
- 顎を開けるとカクカク音がする、大きく口を開けにくい
- 家族やパートナーに「寝ているとき歯ぎしりの音がする」と指摘された
これらのうち1つでも当てはまるものがあれば、一度歯科で相談されることをおすすめします。
特に、朝の顎のだるさと舌の圧痕が両方ある場合は、かなりの確率で歯ぎしり・食いしばりが起きています。
歯ぎしり・食いしばりはなぜ起きる?主な原因
「じゃあ、なぜ歯ぎしりや食いしばりをしてしまうの?」と疑問に思いますよね。
原因はいくつか報告されていますが、実は完全には解明されていない部分も多いのが現状です。
ここでは、現在わかっている主な要因をご紹介します。
ストレスと生活習慣
もっとも大きな関連因子として挙げられているのがストレスです。
仕事や人間関係のプレッシャー、日々の緊張や不安。
こうした精神的なストレスが、睡眠中の歯ぎしりとして表れることがわかっています。
日中にためこんだストレスを、寝ている間に歯ぎしりという形で発散しているとも考えられています。
ストレス以外にも、以下のような生活習慣が歯ぎしり・食いしばりを悪化させる要因として報告されています。
- 飲酒(特に就寝前の飲酒は睡眠の質を下げ、歯ぎしりを起こしやすくする)
- 喫煙
- カフェインの過剰摂取
- 睡眠の浅さ(睡眠時無呼吸症候群や逆流性食道炎との合併も報告あり)
また、テレワークの普及で長時間パソコンに向かう方が増えていますが、集中しているときに無意識に歯を噛みしめてしまうTCH(歯列接触癖)も、近年増えている印象があります。
噛み合わせ・その他の要因
「歯ぎしりの原因は噛み合わせが悪いから」という説を聞いたことがあるかもしれません。
ただ、現在の研究では、噛み合わせの不良が歯ぎしりの直接的な原因であるとする強いエビデンスはありません。
もちろん、噛み合わせが悪いと歯ぎしり時にかかる力が特定の歯に集中しやすくなるため、ダメージが偏るリスクはあります。
ただし、「噛み合わせを治せば歯ぎしりが治る」とは言い切れないのが正直なところです。
そのほか、遺伝的な要因も関係しているという報告があります。
ご家族に歯ぎしりの方がいる場合、自分もそうである可能性が少し高くなります。
放置するとどうなる?歯ぎしり・食いしばりが引き起こすトラブル
「歯ぎしりくらい、放っておいても大丈夫でしょ?」そう思われるかもしれません。
でも、歯ぎしりや食いしばりの力は、普段の食事で噛む力の数倍にもなることがあります。
この強い力が毎晩のように歯にかかり続けるとしたら、どうなるでしょうか。
歯へのダメージ
歯ぎしり・食いしばりを放置した場合に起こりうるトラブルをまとめます。
- 歯の表面がすり減る(咬耗)。エナメル質が薄くなり、冷たいものや熱いものがしみるようになる(知覚過敏)
- 歯にヒビが入る。小さなヒビから虫歯菌が入り込み、虫歯のリスクが上がる
- 歯が根元から割れる(歯根破折)。こうなると多くの場合、残念ながら抜歯が必要になる
- せっかく治療した詰め物やかぶせ物が何度も外れる、割れる
私たちひきしょう歯科クリニックは「できる限り歯を削らない・抜かない」を大切にしています。
だからこそ、歯ぎしり・食いしばりによって大切な天然の歯を失ってしまう前に、早めの対策を取っていただきたいのです。
顎・全身への影響
歯ぎしりの影響は、歯だけにとどまりません。
- 顎関節症(口が開きにくい、顎がカクカク鳴る、顎に痛みがある)
- 慢性的な頭痛。特に側頭部の痛みは、歯ぎしりで側頭筋が緊張していることが原因になっている場合がある
- 肩こり・首の痛み
- 歯周病の悪化(過度な噛む力が歯を支えている骨にダメージを与える)
- エラの張り(咬筋という噛むための筋肉が肥大する)
「原因不明の頭痛」や「なかなか治らない肩こり」の原因が、実は歯ぎしり・食いしばりだったということもあります。
お口の中だけの問題ではないからこそ、気になる症状があれば早めにご相談いただきたいです。
今日からできる歯ぎしり・食いしばりのセルフケア
「歯医者に行く前に、まず自分でできることはないの?」という方も多いと思います。
特に日中の食いしばり(TCH)については、ご自身の意識づけで改善できる部分がかなりあります。
今日からできるセルフケアをご紹介します。
日中の食いしばり(TCH)をやめるコツ
日中の食いしばりは無意識の癖なので、「気づく仕組み」をつくることが一番のポイントです。
東京医科歯科大学が提唱したTCHの考え方をもとにした是正法をご紹介します。
やり方はシンプルです。
- 「歯を離す」と書いた付箋を用意する
- パソコンのモニター、冷蔵庫、洗面台の鏡など、1日のなかで目に入る場所に貼る
- 付箋が目に入ったら、そのとき上下の歯が触れ合っていないかチェックする
- 歯が触れていたら、ふっと力を抜いて歯を離す
たったこれだけです。
ポイントは「歯は離れているのが普通」ということを体に覚えさせること。
正しい安静位は「唇は閉じて、歯は離れている」状態です。
最初は1日に何度も歯が触れていることに気づいて驚くかもしれません。
でも、2〜3か月ほど続けると、徐々に「あ、また噛んでた」と気づけるようになり、無意識に歯を離す習慣がついてきます。
ストレスケアと筋肉のリラックス法
夜の歯ぎしりは意志では止められませんが、ストレスの軽減や筋肉のリラックスによって、症状を和らげられる可能性があります。
寝る前のおすすめルーティンをご紹介します。
- ぬるめのお風呂にゆっくり浸かる(38〜40℃のお湯で15分程度)
- 就寝の1時間前にはスマホやパソコンの画面を見るのを控える
- 寝る前のお酒やカフェインを控える(飲酒は睡眠を浅くし、歯ぎしりを起こしやすくする)
もう一つおすすめなのが、咬筋のセルフマッサージです。
- 耳の下からエラ(顎の角)のあたりに手を当てる
- 指の腹で円を描くように、ゆっくりと30秒〜1分ほどマッサージする
- 同じように、こめかみ周辺(側頭筋)もほぐす
日中に噛みしめた筋肉の緊張を寝る前にリセットするイメージです。
強く押しすぎず、気持ちいいと感じる程度の圧で行ってください。
歯医者でできる治療法と費用の目安
セルフケアだけでは限界がある場合や、すでに歯にダメージが出ている場合は、歯科医院での治療が必要になります。
ここでは代表的な治療法と、気になる費用についてお伝えします。
マウスピース(ナイトガード)による歯の保護
睡眠時の歯ぎしりは自分では止められないので、「歯を守る」という考え方が基本になります。
そこで使われるのが、ナイトガード(マウスピース)です。
就寝時に装着することで、歯と歯が直接すり合わさるのを防ぎ、歯にかかる力を分散してくれます。
日本補綴歯科学会の診療ガイドラインでも、スプリント療法(ナイトガードを含む)について「歯質の保護効果は明白」と記載されており、現時点でもっともエビデンスが確立された対策です。
費用の目安は以下のとおりです。
| 項目 | 費用(3割負担の場合) | 備考 |
|---|---|---|
| 保険適用のナイトガード | 約2,500〜5,000円 | 歯の摩耗や顎の痛みなどの症状がある場合に適用 |
| 自費のナイトガード | 約1万円弱 | 予防目的の場合など |
保険適用には条件があり、歯ぎしり・食いしばりによる何らかの症状(歯のすり減り、顎の痛み、詰め物の破損など)が認められる場合に適用されます。
なお、保険で作製した場合は、6ヶ月経過しないと再作製ができないルールがあります。
「たった数千円で大切な歯を守れる」と考えると、コストパフォーマンスの高い治療です。
ひきしょう歯科クリニックでもナイトガードの作製を行っていますので、気軽にご相談くださいね。
ボツリヌス治療と噛み合わせの調整
ナイトガード以外の選択肢として、近年注目されているのがボツリヌス治療です。
咬筋(噛むための筋肉)にボツリヌストキシンを注射することで、筋肉の過度な緊張を和らげ、歯にかかる力を軽減します。
特に、咬筋の発達が著しい方やエラの張りが気になる方に選ばれることが多い治療です。
ただし、知っておいていただきたい点があります。
日本補綴歯科学会のガイドラインでは、「ブラキシズムそのものを止める」目的でのボツリヌス治療は推奨されていません。
あくまで咬筋の緊張を緩和する対症療法であり、歯ぎしりの根本的な解決にはならないということです。
費用は自費で約1.4万〜6万円(医院によって差があります)。
効果の持続は3〜6ヶ月程度で、繰り返しの施術が必要になります。
噛み合わせの調整についても、「噛み合わせを治せば歯ぎしりが治る」と断定できるエビデンスは現時点では十分ではありません。
ただし、噛み合わせに明らかな問題がある場合は、歯ぎしり時のダメージが特定の歯に集中するのを防ぐために調整を検討することがあります。
どの治療がご自身に合っているかは、お口の状態によって異なります。
「なぜこの治療が必要なのか」「ほかにどんな選択肢があるのか」を一緒に考えることが大切です。
私たちは、あなたが心から納得したうえで治療を進めたいと考えています。
よくある質問(FAQ)
Q: 歯ぎしり・食いしばりは何科に行けばいいですか?
まずは歯科(一般歯科)を受診してください。
歯ぎしり・食いしばりの診断やナイトガードの作製は歯科医院で行えます。
ストレスが大きな原因と感じている場合は、心療内科の受診を並行して検討しても良いですが、最初の窓口としてはかかりつけの歯科医院で大丈夫です。
Q: 歯ぎしりは自分で治せますか?
日中の食いしばり(TCH)は、付箋法などの意識づけで軽減できます。
一方、寝ている間の歯ぎしりは脳の活動に関連した現象なので、自分の意志で完全に止めるのは難しいです。
ただ、「止められない=何もできない」ではありません。
ナイトガードで歯を守りつつ、ストレスケアや生活習慣の改善で症状を和らげることは十分に可能です。
Q: マウスピース(ナイトガード)はいくらですか?保険はききますか?
歯ぎしり・食いしばりによる症状(歯の摩耗、顎の痛みなど)がある場合は保険適用となり、3割負担でおおよそ2,500〜5,000円です。
予防目的のみの場合は自費扱い(約1万円弱)になることもあります。
金額は歯科医院によって幅がありますので、まずは一度ご相談ください。
Q: 子供の歯ぎしりは大丈夫ですか?
子供の歯ぎしりは成長過程でよく見られる現象で、多くの場合は心配いりません。
乳歯から永久歯への生え変わり時期に、噛み合わせを自然に調整するために起こると考えられています。
日本歯科医師会のデータでも、小児の歯ぎしりの有病率は約10〜20%と、大人よりも高い数字が出ています。
ただし、永久歯が生え揃った12歳以降も続く場合や、歯が欠ける・痛みが出ているといった場合は、一度歯科で診てもらうことをおすすめします。
Q: 歯ぎしりで歯が割れることはありますか?
あります。
歯ぎしりの力は通常の食事で噛む力の数倍になることがあり、長期間続くと歯にヒビが入ったり、歯の根元まで割れてしまう(歯根破折)こともあります。
歯根破折は、残念ながら多くの場合抜歯が必要です。
大切な歯を失わないためにも、歯ぎしりの自覚や心当たりがある方は、早めにナイトガードなどの対策を取ることが大切です。
まとめ
歯ぎしり・食いしばりは、自分では気づきにくいからこそ厄介です。
でも、この記事でご紹介したセルフチェックを試してみることで、「もしかして」に気づくきっかけになるかもしれません。
対策をもう一度整理すると、日中の食いしばり(TCH)は「歯を離す」意識づけで改善が見込めます。
寝ている間の歯ぎしりは自分では止められませんが、ナイトガードで歯を守ることができます。
どちらも、早く気づいて早く対策を取るほど、歯へのダメージを防げます。
「舌の跡がガタガタしてる」「朝起きると顎がだるい」など、少しでも気になることがあれば、どうぞお気軽にひきしょう歯科クリニックにご相談ください。
あなたの歯を一日でも長く大切に守るために、一緒にベストな方法を考えましょう。
