「この歯はもう抜くしかありません」
そう言われて、本当にそうなのかと迷っていませんか。
豊中本町歯科クリニック院長の頭司です。
大阪歯科大学の歯周病科で研修を受け、歯を支える骨や歯ぐきをどう守るかを考え続けてきました。
当院のモットー「痛くない・削らない・抜かない」の「抜かない」は、抜歯を拒むという意味ではありません。
抜く前に検査を尽くし、残せる可能性と抜くべき理由の両方を確かめる、という意味です。
この記事では、その根拠を公的データと学会の見解をもとに説明します。
抜歯が必要なケースも隠しません。
なお、親知らずと矯正のための抜歯は扱いません。
親知らずについては口腔外科認定医が語る親知らず抜歯の現場をご覧ください。

「安易に抜歯しない」とは?抜かない約束ではなく抜く前に診査を尽くす方針
歯科保存治療の考え方と「抜歯はいつでもできる」という原則
日本歯科保存学会は保存治療を「歯を抜くことなく、いつまでも自分の歯で噛めるように治療を行い、大切な歯を口の中に維持、保存し機能させていく」ための分野と定義しています。
私が診療で大切にしているのは、抜歯は元に戻せない処置だという一点です。
残す治療を試したあとで抜くことはできますが、逆はできません。
順番を間違えないこと。それが「安易に抜歯しない」の出発点です。
ただし、保存を試みることで周囲の組織に悪影響が出たり、治療が遅れたりしないかも同時に判断します。
ただし、決して抜かないという意味ではありません。
日本口腔インプラント学会誌に載った2018年の総説も「天然歯の延命保存に極力努めつつも、抜歯適応が妥当とされる症例において最適なインプラント治療を行わなければならない」と述べています。
私も同じ考えです。
「痛くない・削らない・抜かない」の「抜かない」が指す範囲
当院の「抜かない」は、次の3段階を踏むことを指します。
- 診察、歯周検査、通常のレントゲン検査を行い、必要に応じて歯科用CTを追加する
- 残せる可能性がある治療法を提示する
- それでも抜歯が妥当なら、理由を説明したうえで抜く
「他の歯医者で抜歯と言われたのですが、残せますか」というご相談は当院にもよく寄せられます。
私の答えはいつも同じで、「検査してみないと分かりません。
ただ、検査せずに決めることはしません」です。
自分の歯を残す価値の医学的根拠:歯根膜・歯槽骨と残存歯数のデータ
歯根膜という「クッションとセンサー」は抜歯で二度と戻らない
歯は骨に直接埋まっているわけではありません。
骨と歯のあいだには歯根膜という薄い組織があり、強い線維で両者を結んでいます。
歯根膜の働きは2つ。
噛む力を受け止めるクッションと、硬さや噛み具合を感じ取るセンサーです。
インプラントにはこのクッションもセンサーもなく、噛み合わせの感度が天然歯より劣ります。
家に例えるなら、歯根膜は基礎のクッション、歯槽骨は地盤。
抜歯は建物を撤去するだけでなく、地盤が痩せ始めるきっかけにもなります。
抜いた歯が自然に生え直すことはなく、その歯に付いていた歯根膜も一緒に失われます。
抜歯後に起こる連鎖:骨の吸収、隣の歯の傾斜、噛み合わせの崩れ
抜歯をすると、歯を支えていた骨は役目を終えて痩せていきます。
2012年の系統的レビュー(Tanら)では、抜歯後6か月で骨の幅が29〜63%、高さが11〜22%減少すると報告されています。
永久歯を抜けたままにしておくと後ろの歯が前に傾き、噛み合っていた歯が移動して噛み合わせが狂います。
「1本抜けたら総崩れですか」という不安をよく聞きますが、総崩れとは限りません。
ただ、歯を失ったままにすると隣の歯の傾斜や噛み合う歯の移動が起こることがあるので、機能回復の方法と時期は歯科医師に相談してください。
残っている歯の本数と健康寿命のデータ(令和6年歯科疾患実態調査ほか)
厚生労働省の令和6年(2024年)歯科疾患実態調査では、80歳で20本以上の歯を持つ人の割合は約61.5%と推計されました。
前回の令和4年調査は51.6%でしたが、今回は集計方法が異なるため単純な比較には注意が必要です。
| 年代 | 1人平均現在歯数 | 20本以上の人の割合 |
|---|---|---|
| 40〜44歳 | 28.1本 | 99.0% |
| 50〜54歳 | 27.4本 | 97.8% |
| 60〜64歳 | 25.7本 | 91.5% |
| 70〜74歳 | 21.3本 | 72.1% |
| 80〜84歳 | 19.1本 | 61.4% |
30〜50代の平均現在歯数は約27〜28本で、年齢が高い集団ほど平均は少なくなり、60〜64歳では25.7本です。
失う原因は、8020推進財団の2018年の調査で歯周病37.1%、むし歯29.2%、破折17.8%でした。
歯の本数と健康の関連も報告されています。
東北大学などが2024年に発表した、65歳以上の自立した高齢者44,083人を10年間追跡した研究では、65歳時点の認知症のない平均余命の推計値が、歯のない人に比べ20本以上ある人で男性2.04年、女性1.75年長いという関連が示されました。
因果関係の証明ではありませんが、歯を残す価値を示す材料にはなります。
「抜くしかない」と言われた歯を残せる可能性:原因別の保存治療の選択肢
根の先に膿がある歯:根管治療・再根管治療から歯根端切除・意図的再植まで
根の先に膿がたまった歯には、段階的な選択肢があります。
状態によって選ぶため、全員がこの順に治療を受けるわけではありません。
- 根管治療(初回)
- 再根管治療
- 歯根端切除術
- 意図的再植
根管治療は、当院では「歯を残す治療」と位置づけています。
日本歯内療法学会によると、根の先に病気のある歯の根管治療の成功率は60〜80%程度です(当院の治療成績を示すものではありません)。
再治療は難しさが増すため、当院では必要に応じてCTで病変の大きさを確認してから判断します。
詳しくは虫歯の治療のページをご覧ください。
再治療でも改善しない場合、根の先から病変を取り除く歯根端切除術や、歯を一度抜いて処置してから戻す意図的再植があります。
意図的再植は、通常の根管治療や歯根端切除が難しい場合に検討する選択肢です。
当院の歯牙再植療法は口腔外科のページで紹介しています。
歯周病でグラグラの歯:歯周組織再生療法が適応になる条件と限界
歯周病は歯を失う原因の第1位です。
骨が溶けて歯が揺れていても、条件が合えば歯周組織再生療法で骨の回復が期待できる場合があります。
日本歯周病学会の歯周病Q&Aによると、再生療法は一般的に中等度の歯周病が対象で、骨がくさび状に溶けた状態に適応があります。
適応となる場合は失った歯槽骨が9割から半分程度回復することが期待できるとされ(個々の治療効果を示すものではありません)、2016年には再生用の医薬品を使う方法が保険適用になりました。
限界もはっきりしています。
同学会は全ての症例で再生されるとは限らないと明記し、骨の成熟には2年以上かかると述べています。
私の実感では、「どれだけ骨が残っているか」と「どんな形で溶けているか」が大きな判断材料です。
それに加え、歯周基本治療への反応、日々の清掃状態、全身状態、使う材料の適応を確認して判断します。
当院の歯周病治療では、検査と説明を経てから方針を決めています。
歯ぐきの下まで進んだむし歯や割れた歯:エクストルージョンやクラウンレングスニングという選択肢
むし歯や破折が歯ぐきの下まで進むと、被せ物が歯をつかむための健全な部分(フェルール)が足りず、抜歯と判断されやすくなります。
この場合、矯正の力で根を引き上げて健全な部分を歯ぐきの上に出すエクストルージョンや、歯ぐきと骨の位置を外科的に整えるクラウンレングスニングという方法があります。
どちらも適応は限られ、自由診療になる場合があります。
ここで挙げたのは一般的な保存治療の選択肢で、適応と当院で対応できる治療は診察で確認します。
根が縦に割れている場合は保存が難しくなります。
破折の範囲や感染の状態、複数ある根の一部だけに限られているかなどを確認して判断します。
それでも抜歯が必要なケース:無理に残すと隣の歯や骨を失う理由
日本歯周病学会の考え方に基づく「残せない歯」の判断基準
日本歯周病学会は、歯周病が進みすぎた歯を無理に残すと、隣の歯を支える骨に悪影響が出たり、抜歯後の骨の形が悪くなって入れ歯やインプラントの治療に不利になったりすると説明しています。
顎の骨全体に炎症が広がる骨髄炎を生じることもあります。
2018年の総説で、日本歯周病学会による歯周治療初期の判断基準として紹介されている内容を噛み砕くと、次の4点です。
- 対症療法をしても、揺れが強くて痛くて噛めない
- 感染した沈着物の十分な除去や、仮の固定ができないほど歯周炎が進んでいる
- 治療中に何度も急性の膿瘍を起こし、周囲の組織を広く壊すおそれがある
- どの治療計画を立てても、その歯を活かす道が見つからない
一方で2018年の総説は「進行した歯周病罹患歯の抜歯の判断は明確に規定することはできない」とも述べています。
強い動揺や根の先に及ぶ骨吸収がある歯は保存が難しい場合がありますが、歯の内部や歯周病の病変の見分け、残っている骨の形などを調べる必要があり、画像の一所見だけで残せないとは判断しません。
ここに判断の幅が生まれます。
当院でも、無理に残すより抜いたほうが隣の歯と骨を守れると判断し、ご説明のうえ抜歯したケースがあります。
「安易に抜かない」と「抜くべき歯は抜く」は、歯を支える組織を守るという同じ考えから出ています。
「症状がないから放置」が危険な理由と、抜歯後に機能を取り戻す選択肢
「重度の歯周病で抜歯と言われたが、症状がないので放置してよいか」という質問があります。
歯周病や根の病変は、痛みがなくても進行することがあり、重度の歯周病では周囲の骨に悪影響が及ぶ場合もあります。
症状がないうちのほうが、選べる道は多いのです。
抜歯は終わりではなく、機能を取り戻す治療の始まりです。
歯を失った場合にも、適切な入れ歯などで口腔機能の回復と維持を図ることが大切です。
重度歯周炎の患者50人を対象にした2011年の5年間の比較試験では、生物学的な合併症が生じなかった割合は再生治療で保存した群が84%、抜歯して補綴した群が83%と報告されています。
対象は条件を満たす症例に限られますが、早く抜いてインプラントにすれば安心、と単純には言えないのです。
抜歯か保存かで迷ったときの判断のポイントとセカンドオピニオンの受け方
歯科医師によって「抜く」「残せる」の判断が分かれる理由
「歯医者によって言うことが違う」という戸惑いは、よく聞きます。
進行した歯の抜歯判断には明確な基準がなく、総合的な評価が求められるためです。
判断が分かれる要因は、主に次の4つです。
- 検査設備。CTの有無で、根の病変や割れ方の見え方が変わる
- その医院で提供できる保存治療の範囲
- 歯科医師の専門分野と経験
- 患者さんの希望、通院できる回数、費用の考え方
どちらが正しくてどちらが間違い、という話ではありません。前提が違うのです。
抜歯を勧められたときに歯科医師へ聞いてほしい4つの質問
- なぜ抜歯が必要と判断したのか。原因はむし歯、歯周病、破折のどれか
- 残す治療の選択肢はあるか。あるなら、その適応に当てはまらない理由は何か
- 抜いた場合と残した場合、5年後、10年後にどうなる見込みか
- 抜いたあとの補綴の選択肢と費用
「なぜ抜歯なのか」を聞き直すだけで、納得度は大きく変わります。
セカンドオピニオンは、今の主治医に失礼ではありません。
ふたつの意見が違ったときは、それぞれの根拠となる検査結果を比べてください。
最終的に決めるのは、患者さまご本人です。
豊中本町歯科クリニックの「最後まであなたの歯を救うための治療」
歯科用CTと歯周病科での研修経験を活かした診査・診断
私は2008年に大阪歯科大学を卒業後、同大学の歯周病科で研修を受け、2015年に豊中本町歯科クリニックを開院しました。
「自分の歯に勝るものはない」という考えは、開院以来変わっていません。
当院では歯科用CTで根の病変や骨の状態を立体的に確認したうえで治療方針を決めています。
日本口腔外科学会の認定医が常勤し、歯牙再植療法にも対応しています。
抜歯を勧められて迷っている方へ:相談から治療までの流れ
- ご相談と検査(CT、歯周検査など)
- 残せる可能性と、抜歯が必要な理由の両方をご説明
- 患者さまのご希望を伺い、治療方針を決定
- 治療後は予防歯科で定期的なメンテナンス
「本当に何でも相談できる歯医者さん」を、私たちは目指しています。
診療は平日と土曜が20時まで、日曜が18時までです。診療時間・アクセスはこちらからご確認ください。
抜歯をすすめられて迷っている方、ご自身の歯を少しでも長く残したい方は、豊中本町歯科クリニックまでお気軽にご相談ください。
歯科用CTなどの検査をもとに、残せる可能性と抜歯が必要な理由の両方を、私から丁寧にご説明します。
ご予約はお電話(06-6855-9999)または24時間受付のWEB予約からどうぞ。
阪急豊中駅から徒歩3分です。
よくある質問(FAQ)
Q: 「抜くしかない」と言われた歯は、本当に抜かないといけませんか?
検査してみないと分からない、が正直な答えです。
原因ごとに保存治療の選択肢がある一方、日本歯周病学会の基準に当てはまる歯は残さないほうが周囲の歯を守れます。
まず「なぜ抜歯なのか」を主治医に聞いてください。
Q: 抜歯を勧められた歯を、症状がないまま放置するとどうなりますか?
歯周病や根の病変は、痛みがなくても進行することがあります。
日本歯周病学会によると、保存が難しい歯を無理に残すと隣の歯を支える骨に悪影響が出ることがあり、抜く時期を引き延ばすと抜歯後の骨の形が悪くなって、その後の入れ歯やインプラント治療に不利になります。
Q: セカンドオピニオンを受けるのは今の歯医者に失礼ですか?
失礼ではありません。
抜歯は元に戻せない処置ですから、納得して決めるのは患者さまの権利です。
レントゲンやCTのデータを提供してもらえば、再撮影の負担も減ります。
Q: 神経を抜いた歯は、残しても意味がないのですか?
意味はあります。
神経を取った歯でも、歯根膜が保たれていれば噛む感覚や力を分散する働きを担えます。
ただし日本歯科保存学会が指摘するとおり構造的に弱く割れやすいので、残った歯質や噛み合わせに応じた修復と定期的な管理が必要です。
Q: 歯を残す治療(再生療法・歯根端切除・再植など)は保険が使えますか?
治療法と条件で異なります。
歯周組織再生療法は再生用の医薬品を使う方法が2016年に保険適用になり、根管治療や歯根端切除術も保険で行える範囲があります。
再植は、外傷で抜けた歯を戻す場合と治療のために一度抜いて戻す場合で扱いが異なるため、予定する術式と保険の条件を確認してご説明します。
エクストルージョンなどは自由診療になる場合があります。
まとめ
「安易に抜歯しない」とは、抜かない約束ではありません。
抜く前に検査を尽くし、残せる可能性と抜歯が必要な理由の両方をお伝えする方針です。
抜いた歯が自然に生え直すことはなく、周囲の骨も変化します。
一方で、無理に残すと隣の歯や骨まで失うため、抜くべき歯は抜きます。
迷ったら「なぜ抜歯なのか」を聞いてください。
セカンドオピニオンをためらう必要はありません。
私はこれからも、最後まであなたの歯を救うための治療を続けていきます。
本記事は一般的な情報提供を目的としており、個々の症状については歯科医師の診察を受けてください。
豊中本町歯科クリニック 院長 頭司圭介
